Chez Smile Blog

 〜すみれの不育症克服プロジェクト〜
 はじめてこのサイトを立ち上げてから10年
 まだまだご覧になられる方も多くいらっしゃるようですので、
 blog版に順次移行を図っていこうと思っています。

 
不育症とその治療
【参考文献】

産婦人科治療(永井書店) Vol.74 No.4 (1997:4)
牧野恒久  杉 俊隆 「不育症とその治療」 

注) 赤字の部分は私が加筆したものです。


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はじめに

 1回の独立した初期流産の頻度は統計上約15%であり、その約60%は胎児に染色体異常があると報告されている。当然患者の年齢が上がれば流産の頻度も増加する。このように自然流産の頻度はかなり多いが、3回以上流産を繰り返した場合は自然淘汰という考えでは確率的に説明できず、習慣流産という病名をつけて検索することになる。また、臨床的に妊娠と診断されない超早期流産の存在を考えると、不妊症と不育症の境界は不明であり、体外受精を繰り返しても妊娠に至らない症例なども、不育症の可能性を考慮しながら対処していく必要がある。習慣流産の原因は多岐にわたっており、系統立てた検査を施行し(表1)、総合的に判断して方針を決定する必要がある。

表1 不育症一般検査

 1.問診、基礎体温
 2.感染症検査
   クラミジアDNA、子宮頚部・膣内培養
   血算、血沈、CRP
 3.内分泌検査
   下垂体機能(プロラクチン)
   黄体機能(黄体ホルモン、子宮内膜組織検査)
   甲状腺機能(freeT3, freeT4, TSH)
   糖尿病検査(空腹時血糖)
 4.子宮形態異常
   子宮卵管造影
 5.夫婦染色体検査
 6.免疫学的検査
   抗核抗体、抗DNA抗体、RF
   抗リン脂質抗体、Lupus anticoagulant
   不規則抗体検査
 7.血液凝固系検査
   血小板凝集能、aPTT、TAT

1.感染
 血液検査で炎症の兆候がないかを検索するとともに、クラミジア頚管炎および子宮頚部・膣内培養(目標菌GBS)を施行する。妊娠への直接的関係を調べるためには子宮頚部から直接検体を採取することをすすめる。陽性にでればそれぞれに対応する抗生剤で治療する。

2.甲状腺機能異常
 甲状腺機能異常の患者に初期流産が多いことは以前より知られていたが、われわれの統計では習慣流産患者の約5%に機能異常が認められる。甲状腺機能低下症は二次的に高プロラクチン血症を引き起こすため、高プロラクチン血症を介した機序も考えられる。治療としては、機能亢進症に対してはmercazoleやPTU、機能低下症に対してはtyradin Sなどである。PTUとtyradin Sには胎盤通過性はない。mercazoleに関しては、胎盤通過性はあるものの、最近の報告ではヒトでの催奇形成に関して有意な差はないといわれている。

3. 高プロラクチン血症
 習慣流産の患者の約15%に認められる。潜在性高プロラクチン血症も考慮して、疑わしい場合はTRHtestも考慮する。TRHtestでは、不可後15分でプロラクチン値70ng/ml以上を陽性とする。甲状腺機能との関連が強いので妊娠中も含めて両者を見ながら治療することが望ましい。下垂体腺腫が存在する場合は脳外科に依頼する。治療としてはパーロデルやテルロンの投与を行う。また、当然向精神薬などの副作用による高プロラクチン血症は最初に否定しておく。

4.黄体機能不全
 高温期の中間でプロゲステロン値が10ng/ml未満なら治療の対象となる。黄体ホルモン経口または経膣投与やhCG筋注にて補充する。

5.糖尿病
 空腹時血糖値が高い場合は75gGTTを行う。妊娠初期にコントロールできていないと胎児奇形を引き起こすので、コントロールがついてから妊娠を許可する。実際の習慣流産患者での糖尿病の頻度は低い。

6.子宮形態異常
 子宮卵管造影にて子宮奇形、子宮筋腫、Asherman症候群などの有無をみる。子宮の内腔の形態が重要なのでバルーン法ではなく、し管を用いて造影することが望ましい。異常と思われる陰影が得られたときは、必要に応じて子宮鏡検査を施行する。また中隔子宮と双角子宮の識別は子宮内腔の検査では困難なの、超音波断層法、MRIや腹腔鏡にて子宮の外形を観察し、診断する。個々の形態異常の程度にもよるが、一般的に中隔子宮の流産率が最も高く、単角、双角、重複、弓状子宮等がそれに続く。子宮奇形の治療としては手術であり、Strassmann, Jones&Jones, Tompkins などの開腹手術やresectoscopeを用いた経膣手術が行なわれる。(子宮形成術を行なった場合、出産は帝王切開となる。)

7.染色体異常
 女性側の染色体異常における理論的流産率はロバートソン転座で4/6(67%)、相互転座で2/4(50%)である。モザイクはその比率によって流産率は異なる。男性側の異常は受精前に淘汰されるため、最大10%程度といわれている。いうまでもなく治療は不可能であるので、理論的な流産率などに基づいたカウンセリングを行う。
  

8.免疫血液凝固異常
 SLE(全身性エリテマトーデス)患者に流産、早産、子宮内胎児死亡などが多いことから、自己免疫疾患と妊娠予後の関連が1960年代より注目されている。また習慣流産患者の自己抗体陽性頻度は20〜30%と高率であることが判明し、自己抗体と習慣流産の関連も注目されている。妊婦スクリーニング調査によれば、妊婦の抗核抗体陽性率は10〜15%であり、決して低くない。このうち自己免疫疾患患者は1〜2%であった。したがって抗核抗体が陽性にでただけで安易に流産の原因と決めつけ治療することは慎まなければならない。しかしながら抗核抗体は習慣流産群で約20%、抗リン脂質抗体陽性の習慣流産群で約30%陽性であり、自己免疫を介する流産の一つの指標になる。
 近年抗リン脂質抗体と反復流産、反復血栓症との関係が注目されている。一般的には抗カルジオリピン抗体やLupus anticoagulantのスクリーニングが行われる。これらの病原性についてはまだ不明の点も多いが、血小板凝集能亢進、血管内皮細胞活性化、血液凝固系活性化などが報告されている。注意すべきことはひとことで抗リン脂質抗体といっても、その種類は多様で、リン脂質そのものを認識する抗体や、リン脂質に結合する蛋白を認識する抗体などがあり、それぞれの目標抗原によってまったく異なる性質を持つ。たとえばリン脂質そのものを認識する抗体は知られている限りでは病原性はない。また、今までは主に電気的陰性のリン脂質に対する抗体が注目されていたが、実際にはrestingな状態では血小板や血管内皮細胞の細胞膜外皮上には陰性リン脂質は存在せず、phosphatidylethanolamine(フォスファチジルエタノールアミン:PE)などの中性のリン脂質がほとんどを占める。したがって抗PE抗体の存在を無視することはできない。われわれは抗PE抗体の多くがPEに結合するキニノーゲンを認識することを発見した。その抗体は習慣流産群や血栓症群で高率に認められ、in vitro(試験管内では)トロンビンによる血小板凝集能を亢進させることが確認された。 (東海大では学内倫理委員会の承認のもと、抗PE抗体のスクリーニング検査を研究室にて実施している。私もこの検査のために3ccの血液を提供することに同意し、検査を受けた。)
 この他にも多くの未知の抗リン脂質抗体が存在することは容易に想像される。以下に、免疫血液凝固系検査の結果をいくつかのパターンに分けて、治療方針をまとめる。

1.抗リン脂質抗体症候群
 抗リン脂質抗体の陽性(Lupus anticoagulamtも含む)の治療法に関してはまだ確立していない。抗リン脂質抗体の目標抗原によって血栓形成機序が異なるために、治療法もケースバイケースであると思われる。現時点での主な治療法は、低用量アスピリン療法、ヘパリン、プレドニン、柴苓湯などがある。低用量アスピリン療法は、アスピリン81mg/日を妊娠初期より投与し、分娩の1週間前には中止する。血小板凝集能を抑制する作用は81mg/日で十分であり、より強い効果を期待して増量することは出血などの副作用を招くだけで無意味である。ヘパリン療法は、妊娠初期よりヘパリン10,000単位/日投与する。トロンビン増加例(TAT上昇、prothrombin fragment1+2上昇、AT3減少)で効果が期待できる。胎盤通過性がないので、胎児に対しては安全である。プレドニン療法は、抗リン脂質抗体の抗体価を低下させることを期待する治療である。投与量は抗体価による。副作用を考え、特に妊娠中は慎重に投与すべきである。柴苓湯はプレドニン作用と、血小板凝集能抑制作用を持つと報告されている。妊娠中通して投与する。

2.抗核抗体のみ陽性
 反復流産の既往があり、抗リン脂質抗体は陰性で抗核抗体のみ陽性にでることは、よくある。抗核抗体は免疫系のアンバランスの指標にはなるが、抗核抗体自体の病原性は報告されておらず、安易に抗リン脂質抗体症候群に準じた治療を行うことは慎むべきである。しかしながら、これらの患者さんは未知の抗リン脂質抗体を持っている可能性は否定できない。原因不明のIUGR(子宮内発育遅延)や子宮内胎児死亡などの既往がある場合は注意が必要である。また血小板凝集能が亢進している場合は低用量アスピリン療法を、TATやprothrombin fragment 1+2高値の場合は低用量アスピリン療法やヘパリン療法を考慮すべきである。

3.自己抗体、血液凝固検査すべて正常
 3回以上の流産歴がある原因不明習慣流産患者の場合は、夫リンパ球による免疫療法を考慮する。流産歴2回の場合は、免疫療法は予後を改善しないというデータが複数の施設より報告されており、副作用も考慮すると免疫療法の適応とならない。もちろん流産歴2回の場合は、本当に何も流産の原因がないということが多いと思われる。免疫療法はその作用機序についていくつかの報告があるが、不明の点も多い。副作用については感染症、GVHD(移植片対宿主病)、不規則抗体の出現などがある。GVHDは放射線照射によって防止できる。不規則抗体については、新たな不妊症、流産の原因をつくりだす可能性がある。また、胎児に作用して胎児水腫を引き起こす可能性もある。このように免疫療法は作用機序が不明なうえに安全性が確立されている訳でもないので,慎重に考慮し、十分なインフォームドコンセントが必要である。

 

   

 

 
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